拘禁刑の創設、執行猶予制度の改正【刑法改正】【令和7年6月1日施行】

令和4年6月13日に成立した「刑法等の一部を改正する法律」(令和4年6月17日公布・法律第67号)で、刑法に大きな改正が加えられました。

主な改正点の一つである侮辱罪の法定刑の引き上げについては、報道などで多く取り上げられたこともあり、比較的広く知られていると思います。

一方で、今回の改正では、拘禁刑の創設や執行猶予制度の改正など、刑に関する制度も大きく変わっています。こちらはあまり大きく取り上げられておらず、改正内容がそれほど広く知られていないのではないかと思います。

そこで、本コラムでは、後者(拘禁刑の創設、執行猶予制度の改正)について説明しています。

(施行日について追記しました。)

「拘禁刑」の創設

「懲役」及び「禁錮」が廃止され、「拘禁刑」が創設されました。

改正前

従来、自由刑(受刑者の身体を拘束する刑)として、「懲役」と「禁錮」がありました。

「懲役」と「禁錮」の違いは、刑務作業を義務付けられているか否かという点にあります。「懲役」は刑務作業を行うことが義務付けられていますが、「禁錮」は刑務作業を義務付けられていません。

改正前 刑法

(懲役)
第十二条  懲役は、無期及び有期とし、有期懲役は、一月以上二十年以下とする。
2  懲役は、刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる
(禁錮)
第十三条  禁錮は、無期及び有期とし、有期禁錮は、一月以上二十年以下とする。
2  禁錮は、刑事施設に拘置する。

改正後

「懲役」と「禁錮」が「拘禁刑」に一本化されました。

また、「懲役」では、「所定の作業を行わせる。」と規定されていましたが、「拘禁刑」では「改善更生を図るため」という目的が明記され、その目的のために「必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができる」こととされています。

改正後 刑法

(拘禁刑)
第十二条  拘禁刑は、無期及び有期とし、有期拘禁刑は、一月以上二十年以下とする。
2  拘禁刑は、刑事施設に拘置する。
3  拘禁刑に処せられた者には、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができる

なお、当然のことですが、刑法の他の条文にある「懲役」「禁錮」も「拘禁刑」に改められています。

例えば、窃盗罪は、以下のようになっています。

改正後 刑法

(窃盗)
第二百三十五条  他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。

「拘留」はどうなったか

細かい点ですが、拘留は改正後も存置されています。
ただし、拘禁刑の規定と平仄を合わせる形で、「改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができる。」との条項が新設されています。

改正後 刑法

(拘留)
第十六条  拘留は、一日以上三十日未満とし、刑事施設に拘置する。
2  拘留に処せられた者には、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができる

施行日

公布後3年以内に施行予定とされていましたが、令和5年11月10日公布の政令第318号により、施行日は令和7年6月1日とされました。

刑法等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(政令第318号・令和5年11月10日公布)

内閣は、刑法等の一部を改正する法律(令和四年法律第六十七号) 附則第一項本文の規定に基づき、この政令を制定する。
刑法等の一部を改正する法律の施行期日は、令和七年六月一日とする。

刑法等の一部を改正する法律

(中略)
第二条 刑法の一部を次のように改正する。
(中略)
附 則
(施行期日)
1 この法律は、公布の日から起算して三年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
一 第一条及び附則第三項の規定 公布の日から起算して二十日を経過した日
二 第四条、第六条、第八条、第十条(少年院法第二条第三号、第三条第二号、第四条第一項第四号、第百四十一条第一項ただし書及び第百四十七条第一項の改正規定を除く。)及び第十一条の規定 公布の日から起算して一年六月を超えない範囲内において政令で定める日
(以下省略)

改正の理由

前述のとおり、「懲役」と「禁錮」の違いは、刑務作業が義務付けられているか否かという点にあります。しかし、禁錮の受刑者も許可を受ければ刑務作業を行うことができ(これを請願作業といいます。)、実際には禁錮受刑者の多くが請願作業を行っていました。そのため、「懲役」と「禁錮」を分ける意味が乏しくなっていました。

また、「懲役」においては、刑務作業に時間がとられ、必要な指導や教育を受ける時間が十分にとれないという課題なども指摘されていました。例えば、学力が十分でないために社会にうまく適応できないという若年の受刑者については、十分な教育を受けることが再犯の防止のために重要となりますが、「懲役」ではそのための時間が十分にとれませんでした。

そこで、前述のとおり、「懲役」と「禁錮」を「拘禁刑」に一本化した上で、刑の目的を「更生改善」とし、作業を行わせるだけでなく、必要な指導も行うことができることとしました。

再度の執行猶予の要件緩和①(再犯の宣告刑の範囲の拡大)

刑の執行猶予には、①これまで禁錮・懲役(改正後は拘禁刑)の言渡しを受けたことのない者等に対して言い渡す初度の執行猶予と②執行猶予期間中に再び罪を犯した者に対して言い渡す再度の執行猶予がありますが、②再度の執行猶予を言い渡すことのできる刑の上限が1年から2年に引き上げられました。

改正前

改正前は「一年以下」の懲役又は禁錮を言い渡す場合しか、再度の執行猶予はできませんでした。そのため、言い渡す刑が1年を超える場合(例えば、懲役1年6か月や懲役2年を言い渡す場合)には再度の執行猶予を付すことができませんでした。

改正前 刑法

(刑の全部の執行猶予)
第二十五条 (※第1項は省略)
2  前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。

改正後

「二年以下」の拘禁刑を言い渡す場合には、再度の執行猶予が可能とされ、上限が1年から2年に引き上げられました。これにより、言い渡される拘禁刑が1年6か月や2年の場合でも、再度の執行猶予を付すことが可能になりました。

改正後 刑法

(刑の全部の執行猶予)
第二十五条 (※第1項は省略)
2  前に拘禁刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が二年以下の拘禁刑の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、この項本文の規定により刑の全部の執行を猶予されて、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。

施行日

施行日は令和7年6月1日です。

改正の理由

再度の執行猶予を適用できる範囲を従来より広げることで、裁判所の選択肢を増やし、より適切な処遇を選択できるようにするために、このような改正がされました。これにより、従来実刑にするしかなかった者(1年超2年以下の刑を言い渡される者)についても、再度の執行猶予を付して、社会内での処遇を継続することができるようになりました。

なお、執行猶予期間中の再犯について2年超3年以下の刑が言い渡されるような事案については再度の執行猶予を言い渡すことが相当とはいいがたいこと、初度の執行猶予の場合と同じく3年とすると、執行猶予の取消による心理的強制によって再犯防止を図るという執行猶予の機能を損なうおそれがあることから、「3年以下」ではなく「2年以下」とされました。

3 再度の執行猶予の要件緩和②(保護観察付執行猶予中の再度の執行猶予)

保護観察付執行猶予中の再犯の場合でも、再度の執行猶予が可能となりました。

改正前

従来は、保護観察付執行猶予中の再犯の場合、再度の執行猶予を付すことはできませんでした。

改正前 刑法

(刑の全部の執行猶予)
第二十五条 (※第1項は省略)
2  前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。

改正後

保護観察付執行猶予中の再犯の場合でも、再度の執行猶予が可能となりました。

ただし、再度の執行猶予(この場合必ず保護観察が付されます。)の期間中の再犯に対して、さらに再度の執行猶予(いわば3度目の執行猶予)を付すことはできません。
要するに、初度の執行猶予を保護観察付き(裁量的保護観察)とした場合でも、再度の執行猶予ができるようになったということです。

改正後 刑法

(刑の全部の執行猶予)
第二十五条 (※第1項は省略)
2  前に拘禁刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が二年以下の拘禁刑の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、この項本文の規定により刑の全部の執行を猶予されて、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。

施行日

施行日は令和7年6月1日です。

改正の理由

これも、再度の執行猶予を適用できる範囲を従来より広げることで、裁判所の選択肢を増やし、より適切な処遇を選択できるようにするための改正です。保護観察付執行猶予中の再犯の場合であっても社会内での処遇を継続することが望ましいと思われる事案も考えられるところ、本改正によりそのような事案について執行猶予を付すことが可能となりました。

また、従来の制度では、初度の執行猶予に保護観察を付けると執行猶予期間中に再犯をしてしまった場合に再度の執行猶予を付すことができなくなってしまうことから、裁判官が初度の執行猶予において保護観察を付けることに躊躇をしてしまうという指摘がありました。そこで、本改正によって、初度の執行猶予で保護観察が積極的に利用できるようになることもまた期待されています。

執行猶予期間満了後の刑執行(執行猶予取消)の制度の導入

執行猶予期間満了後であっても、執行猶予が取り消されて刑の執行を受ける制度が導入されました。

改正前

従来は、執行猶予期間中の再犯の場合でも、再犯の判決の確定までに執行猶予期間が満了すれば、「前の刑の執行猶予が取り消されて前の刑の執行を受ける」ということは避けられました。これは、執行猶予期間の満了により、刑の言渡しが効力を失うためです。

改正前 刑法

(刑の全部の執行猶予の猶予期間経過の効果)
第二十七条  刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。

改正後

執行猶予期間中の再犯(罰金以上の刑に当たる罪に限ります。)について公訴の提起がされた場合、執行猶予期間満了後も一定の期間(「効力継続期間」)は刑の言渡しの効力及びその刑に対する執行猶予の言渡しが継続しているものとみなされます。
その結果、再犯の判決の確定までに前の罪の執行猶予期間が満了していたとしても、前の罪の刑の執行猶予が取り消されて刑の執行を受けるという可能性が生じました。

なお、刑法25条との関係では、前の刑の言渡しの効力は失っているものとみなされます(改正後の27条3項)。
そのため、判決言渡しまでに執行猶予期間が満了していれば、再度の執行猶予ではなく、初度の執行猶予の適用の問題となります(つまり、宣告刑が2年を超える場合でも執行猶予を付すことができます。)。

改正後 刑法

(刑の全部の執行猶予の猶予期間経過の効果)
第二十七条  刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。
2  前項の規定にかかわらず、刑の全部の執行猶予の期間内に更に犯した罪(罰金以上の刑に当たるものに限る。)について公訴の提起がされているときは、同項の刑の言渡しは、当該期間が経過した日から第四項又は第五項の規定によりこの項後段の規定による刑の全部の執行猶予の言渡しが取り消されることがなくなるまでの間(以下この項及び次項において「効力継続期間」という。)、引き続きその効力を有するものとする。この場合においては、当該刑については、当該効力継続期間はその全部の執行猶予の言渡しがされているものとみなす。
3  前項前段の規定にかかわらず、効力継続期間における次に掲げる規定の適用については、同項の刑の言渡しは、効力を失っているものとみなす
 一  第二十五条、第二十六条、第二十六条の二、次条第一項及び第三項、第二十七条の四(第三号に係る部分に限る。)並びに第三十四条の二の規定
 二  人の資格に関する法令の規定
4  第二項前段の場合において、当該罪について拘禁刑以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないときは、同項後段の規定による刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。ただし、当該罪が同項前段の猶予の期間の経過後に犯した罪と併合罪として処断された場合において、犯情その他の情状を考慮して相当でないと認めるときは、この限りでない。
5  第二項前段の場合において、当該罪について罰金に処せられたときは、同項後段の規定による刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消すことができる。
6  前二項の規定により刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消したときは、執行猶予中の他の拘禁刑についても、その猶予の言渡しを取り消さなければならない。

公訴の提起は執行猶予期間内になされる必要があるのか

「刑の全部の執行猶予の期間内に更に犯した罪…について公訴の提起がされているときは、」という条文について、「執行猶予の期間内に」が「更に犯した」にだけ係り、「公訴の提起がされている」に係らないと考えると、公訴の提起は執行猶予期間経過後でもよいということになります。
しかし、法制審議会の最終的な取りまとめでは、「刑の全部の執行猶予の期間内に更に罪を犯し,その罪について猶予の期間内に公訴を提起されて,新自由刑以上の刑に処せられ,その刑の全部について執行猶予の言渡しがない場合は,その刑に処せられたのが猶予の期間経過後であっても,刑の全部の執行を猶予された当初の刑を執行することができる仕組みを設けるものとする。」と記載されています(少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会 第29回会議(令和2年9月9日開催)-最終的な取りまとめ(諮問第103号に対する答申案)8頁)。
したがって、公訴の提起も執行猶予期間内になされる必要があると思われます。

施行日

施行日は令和7年6月1日です。

改正の理由

執行猶予期間を無事何もなく過ごせば、刑の言渡しは効力を失い、刑の執行を受けずにすみますが、一方で、執行猶予の期間内に更に罪を犯すと、前刑の執行猶予が取り消されて、前刑と再犯の刑の両方が執行される可能性があります。そのため、執行猶予制度には、執行猶予が取り消されるかもしれないという心理的強制により再犯を防止するという機能があります。
ただ、従来の制度では、執行猶予中に再犯をしても、再犯についての判決確定前に執行猶予期間が満了してしまえば、執行猶予が取り消されて前刑の執行を受けるという可能性がなくなっていたため、執行猶予期間の満了が近づくにつれて、執行猶予取消による心理的強制により再犯を防止するという執行猶予制度の機能が低下してしまうという問題がありました。
そこで、このような問題に対処するため、このような改正がされました。